村では数人の警備員を雇っていた。
村の治安維持の為の村営警備員がそれである。
その中でひときわ目立ったのが記録係のシュラゴ氏である。
落ち着きが無く、ギョロリとした目玉でウロウロしているのは警備員の巡視なのか?
空き巣狙いの不審者なのか?
分からない。
今は顔が知れ渡っているから誰もが村営警備員のシュラゴとわかる。
最初の頃は不審者とシュラゴ氏は間違われ騒動を起こしたものだった。
背が低く、大きな頭部と飛び出している目玉で路地裏などを屈んでキョロキョロウロウロさ
れると大迷惑。
落ち着いて家の中に居られない。
何か覗かれて観察されているのではないか?
と嫌な気分に村人はなってしまうから。
シュラゴ氏の警備員机の上には手垢で汚れたボロボロの分厚いノートが数冊置かれている。
机の引き出しには年代順のこれまた厚いノートがぎっしりと詰まっていた。
仲間からはシュラゴノートと呼ばれ、村の住人の細かな事柄がびっしりと記録されている。
「事件が起きた時の手掛かりに必ずなる」と口癖のシュラゴ氏、
綿密に記録を積み重ねている。
ところでシュラゴ氏は何に関心を寄せているのか?
ノートを覗いてみよう。
「各家の樋の流れ具合はどうか?枯葉が樋に詰まって雨水が流れ難くなっていないか?
軒から落ちてくる雨水が作る水溜りはどのくらい規則的に並んでいるのか?
その直径の平均値は?
家の門扉は正確に重なり合うか?
軋んでないか?
家々のランプ灯の色は何色が多い?
ランプ点灯時間のズレ。
家族構成、生い立ちと性質、村の男女の比率、亭主の帰宅時間と仕事内容、酒と煙草を好む
か?
靴下の色、下着は何日に一度替えるのか?好みの色は?色盲はいるか?
職場での評判と吸い殻数。
庭に実のなる木を植えてある家、その果実の種類。
一軒あたりのヤモリの数。
各家庭の糞壺の大きさと数、側溝へ汚物を毎朝捨てる際に水で流すか?
悪臭のもと!
木靴を履いている家庭。
革靴を履いている家庭と靴の重さ、裸足の家庭。
夕食が家族一緒の家庭とバラバラの家庭の数。
楽器がある家庭。
家庭内から聞こえてくる雑音の種類。
水瓶の数と大きさ、或いは水瓶に模様が入っているか?
猫と犬を飼っているか?
カエルが冬眠する穴が庭にあるか?
モグラが庭に何匹生息してか?
土の種類と味(栄養素が土に入っているか)。
冬は薪ストーブか、暖炉か、石で囲んだ焚き火か?
消灯時間は平均何時か?最も寝るのが遅い家は?最も起きるのが早い家は?
鼾と歯軋りの人数。
朝ごはんを作る白い煙が上がる時間。
鶏の声はどの家庭が一番大きいか?
欠伸と放屁の多い人の顔と尻の形。
足のサイズが一番大きい住人、頭回りサイズと帽子着用の住人数。
帽子の形、夏冬用の帽子種類。
髭を伸ばしている男達、顎髭、口髭、鼻毛が目立つ人。
耳が遠い住人、盲人、色盲。
爪の形と長さと色。
刺青をしている人数と場所。
性別不明の人数、痴呆症と行方不明の人の数、酒場に通い詰める人、酒を飲めない人の数。
地酒を隠れて自宅で作っていないか?
このように、村の住人の情報が事細かに延々と記録されているジュラゴノート。
大きな目玉はカメレオンのように動き回り、村のあらゆる情報を記録し役立てるつもりだ。
シュラゴノートには、まだまだ情報がギッシリと記録が残されているが、彼は「事柄事象の
大方の記録はあり心配ないが、各人の使っている時間の面積と容積、
人の心の流れは記録できないので悩んでいる。
人の心模様が鏡のように記録できたら最高だね!」と彼は言う。