幼少の頃、母に連れられて街の店に入った事があった。
初めて見るケーキというものに違和感を覚えた。
何故か、それはとても美しくイチゴやクリーム、細かな果物が並んでいて、
食べるのがもったいない、
食べる事がケーキを壊すことになるような罪悪感があったからだ。
それは、芸術作品をバラバラにして壊してしまうのと同じだからだ。
食べたいけど食べられない・・苦痛がともなうケーキ。
食べないソマエリを母が優しく教えてた。
「これを作った職人さんは、お客さんが喜んで食べてくれることを願っているの、
だから食べてごらんなさい」
そっと、生クリームを口に入れたソマエリは、
この世にこんな美味しいものがあるのかと天に昇るような感動に包まれた。
このケーキという素晴らしい食べ物を僕も作りたいと幼いソマエリは思った。
数年後、ソマエリは自宅の台所で見様見真似でケーキを作っては失敗していた。
専門的な作り方を知らないソマエリは自己流で作っていた。
将来はケーキ職人に弟子入りして本格的にケーキを作りたいと思っていた。
何年かしてケーキ職人になったソマエリは、
何かが欠けている自分のケーキに落ち着かない。
作っては納得いかなく捨ててしまう日々が続いた。
あるとき、先輩のケーキ職人が
「美味しく作ろうとするから、美味しくならないんだよ、
作ろうとすればするほど不味くなるよ、そんなもんだよ。」
ソマエリが「では、どうすればいいのですか?」と問うと先輩は
「まず、素材に感謝すること、食べる人の笑顔と幸福を願って作ることを忘れないことだ」
と言う。
ソマエリは自分の味覚を満足させることにのみ躍起となってケーキを作っていたことを反省
し、ひとつひとつのケーキに愛情を与えて作っている。