重く硬い黒光りする鎧兜を始終身にまとっているオッコノイ氏。
盛り上がった鎧は威圧的で堂々としており、内包される肉体を想像させる。
鎧の肩と胸の辺りには無数の刀傷が残されており、歴戦の勇姿を思わせる。
片目は戦で失ったようで、顔は幾らか萎み形相は異様だ。
その顔には戦場での孤独が刻み込まれているように見える。
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戦はとうの昔に終わっていた。
村役場にもオッコノイ氏が戦に行っていたという記録は残ってない。
年齢的にも彼の生まれた年にはすでに戦は終わっていた。
何故、オッコノイ氏は重い鎧兜を身につけて生活しているのだろうか?
村人がオッコノイ氏に聞いても彼は何も答えず、無言で鎧兜を身につけて歩く。
「あれは戦士の真似をしているだけだよ」
「てめえが弱虫なものだから、鎧兜を着て威嚇しているのだ」
「戦にあこがれているのだ」
「怠け者だよ、働かないで鎧を着て突っ立ているだけだから」
「夏でも冬でも鎧兜姿で大変なこって?」
「何も着る物がないからさ。洗濯しなくて済むじゃねえか」
「変人なだけさ」
オッコノイ氏が歩く後ろから次々と罵声が投げかけられる。
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オッコノイ氏の一日が終わり、やっと鎧を脱ぐ。
重い鎧を脱ぎ終わるのに時間は掛かる。
誰に想像が出来ようか?オッコノイ氏の姿を!
艶を失った白く湿った肌、肉の削げ落ちた細い足と腕にまばらに体毛が見える。
胴には肋骨の影が深くめり込み、ヘソの部分には皺がよって皮膚が垂れている。
毛虫の塊がモジャっている下腹部、頭部はまるで雛の頭だ。
顔は兜を外すと意外と幼く威厳も何もない老人のように見える。
どうしたのだろうか?まるで鎧という家から出てきたナメクジだ。
いや、カタツムリ?
オッコノイ氏は老人のように背を屈め、寝る前に庭で放尿する。
ベッドの上の薄汚れたシーツの上で胎児のように丸くなり眠りに入る。
「戦士御苦労様!」